Monday, 13 June 2016

ラオニッチが語るコーチ、生い立ち、ウィンブルドンへの思い、意外な趣味

英ガーディアン紙サイトに先日アップされたミロシュ・ラオニッチのロング・インタビューですが、これがなかなか興味深い内容でした。複数の異なるタイプのコーチと仕事をする意義、移住したカナダでの子供時代の話、ウィンブルドンへ抱く特別な気持ち、彼がテニス以外に興味を持っているものとは?



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インタビューが行われたのはある月曜の午後、モナコのレストランでの事。

「テニスプレーヤーになるなんて夢物語だった」
「でもその夢っていうのは、ウィンブルドンのトロフィーを掲げたところで夜中に目が覚めるようなあの夢のことだよ。僕はそういう夢を何度か見た。実現できると思ってたかって?現実的な12、3歳なんている?」

「僕のものの見方と目標は変化してきた。16歳の頃のインタビューでは、僕はトップ50で堅実なキャリアを築きたいと答えている。その後目標を達成して、長いことトップ15やトップ10にいる。自分がさらにいい選手になっていると感じるし、自分自身から引き出せるものが分かるにつれて、目標を修正してきた」



先日、芝シーズン限定のコーチとしてウィンブルドン三回優勝のマッケンローを招聘。マッケンローがニューヨーク・タイムズ紙に対し話したところでは、

「彼(ラオニッチ)は優勝する可能性を持っていると思うよ。彼の特性や体格の生かし方について、より良い理解を与えられたらいいね」

18歳だった7年前、プロのテニスプレーヤーになるという彼の決断を疑った両親を軟化させるため、経済学のコースを取ったというラオニッチ。マッケンローからこの度の契約について発表があった後、彼は

「僕のコーチは皆アドバイザーなんだ。そして自分が耳にしたこと全てから、自分にとって何が価値があり何がベストかを判断するのが僕の仕事。僕はミロシュ・ラオニッチ・テニスのCEO(最高経営責任者)なんだ」

現在ジョン・マッケンロー、カルロス・モヤ、リカルド・ピアッティの三名をコーチとして迎えているラオニッチは、それぞれに全く異なる役割があると説明。

「このレベルではコーチングが非常に重要だ」
「カルロス(・モヤ)は僕より随分ゆったりしている。彼にはマヨルカ島精神があって、僕が精神的に消耗する可能性があったり重要でない物事に意味を持たせないように教えてくれた」

「元プレーヤーといられる期間は短か目。選手経験者は助けることはできても、それはその人の個人的なツアー経験に基づくもの。それに引き換えリカルドは骨の髄までコーチで、コートに6時間立つことを好む」

「引退した選手は、教えるだけのためにコートに立つことを好まない。でも、リカルド(・ピアッティ)は5歳の子供に教えることも楽しむだろう。その子はあっちこっちにボールを飛ばすけど、リカルドは僕をコーチする前だったとしても2時間走り回ってボールを拾うだろうね。彼はプロと働くよりも、正直そういう方が楽しいんじゃないかな。自分の経験を与える元プレーヤー達とはかなり異なるメンタルだよ。でも、その両方を持つことが重要なんだ」

アンディー・マレーに対し、一時セットカウント2-1でリードしていた今年の全豪準決勝について。

「僕はとてもいいプレーをしていた」
「間違いなく僕の過去最高のテニスだった。でも、第3セットで内転筋に問題が起きた。張りを覚えたけど、自分に言い聞かせた。『オーケー、これは多分ただの疲れだ……続けよう』。第4セットに入ると痛みが酷くなり、プレーを妨げ始めた。アンディーとの試合は、他のどの試合よりも僕の心を傷つけた。僕の体がもってさえいれば、十分勝つチャンスがあったから。それに、たくさんの怪我に対処しなければならなかった昨年のこともあったし」

一時キャリアハイ4位を記録するも、その後故障に悩まされた2015年。

「それについては少しがっかりした」
「グレーな領域は常にあった。練習をしないでおけば、試合はできるかもしれないとか。何一つ定かでなかったし、シーズンを早めに切り上げて怪我からの回復に努める必要があった」

ウィンブルドンでは2年前ベスト4を記録したものの、それ以外の年は3R止まり。

「芝で自分のベストのテニスができる人間なんていない。酷くなる自分のプレーにどれだけ対処できるかなんだ。滑りやすいサーフェスは厄介だ。対戦相手にとっても同様に厄介なんだということを受け入れてこなければならなかったよ」

2011年ウィンブルドン2Rでは、ジル・ミュラーとの試合中に転倒して怪我。

「あれで3か月離脱した。3番コートだった。それから数年はいつも、自分の試合を3番コートに入れないようリクエストした。『頼むよ。このコートのことは考えたくないんだ。他のコートにしてくれ』って。次にプレーしたのは準決勝に進んだ年(2014年)だった。あの年はボールを強打していた。前はプレースメント重視だったけど、かなり強く叩き始めた。いい感じだったよ。準決勝(のフェデラー戦)でとても落ち込むまではね。全てのグランドスラムの中で、最も有益なレッスンを僕に与えてきたのはウィンブルドン。オーラが違うね。それにウィンブルドンは、間違いなく僕が最も畏敬の念を抱いている大会だ。僕のアイドルがピート・サンプラスだったことも、ウィンブルドンで優勝したいもう一つの理由」

クイーンズ出場にあたっては、

「去年初めてクイーンズに出て、本当に気に入った。素晴らしいコートや施設があって、ウィンブルドンに備えるには最高の場所だ。(ロンドンの)シティーセンターに近いから、ウィンブルドンの家に引きこもる前に外出して気持ちをリフレッシュできるのもいい」

彼が子供の頃お父さんからコーチを受けていた場所は、カナダのオンタリオ。

「僕たちはブラックモア・テニス・クラブとある取り決めを交わしていた。最も混みあう時間は、コート1面が1時間36ドル。それで父がマネージャーと話して、月に一定額払ったら空いている時間は使っていいことになった。父は朝6時から8時、夜9時から11時の間僕のコーチをした。その二つの時間帯はコートの使用を保障されていた。僕は9歳だったから、夜更かしできるのが嬉しかった」

旧ユーゴスラビアからカナダへ移住したラオニッチ一家。

「僕たちが移住したのは94年だった。僕は3歳で、兄と姉はティーンだった。両親にとっては大きな変化だったけど、運に恵まれていた。二人とも同じ日に仕事が見つかったんだ」

ラオニッチの家族はセルビア人を祖とし、モンテネグロの出身。

「バルカン紛争は移住決断の一つの要因。もう一つには機会を求めるためでもあった。紛争に追いやられて、両親は決意した。両親にとってはとても困難なことだったけど、僕たちにはそういう部分を一切見せなかった。全ては僕たちに機会を与えることに繋がっていた。僕にとってはそれはテニスだった」

お父さんは電気工学の博士、お母さんはコンピューター工学の修士を持っているそうで、

「両親はテニスを現実的な職業だとみなしていなかった。成功するのが難しいスポーツだから」
「トップになれば経済的な恩恵が大いに受けられるけど、転落するのも早い。とっかかりも難しい。フロリダのフューチャーズでは予選が5Rまであって、ATPポイントを得ようとすれば本戦で一つ勝たなければならなかったのを覚えている。成功するか壊れるかのどちらかだ」

「4回勝っても、本戦に届かなければ一銭にもならない。それでも飛行機代は払わないといけないし、本気で戦おうとすればコーチが必要だ。他の人間のために食費、宿泊費、交通費を払わなければならない。こんなことも考える。『明日の試合は朝11時スタートだから、ホテルはチェックアウトしておいた方がいいな。もしも勝てなかった時、もう1泊分払いたくない』。気持ちの上で試される。どれだけ欲しているかが試される」

「両親は理解があったけど、プロに転向した時は大学のコースを取るのが約束だった。僕は自分が力を注げば、事は起こるとただ考えていた。僕はいつもそんな感じだった」

ラオニッチと記者がレストランを出て港へ向かっている間、彼のテニス以外の関心事が明らかに。

「ニューヨークでアンディー・ウォーホールのアートを紹介されたんだ。それがあの街に恋をした理由の一つ。僕の母の叔父は、モンテネグロで恐らく最も有名な芸術家なんだ。でも、僕の他の家族は学術系。二人の祖父と僕の父は皆教授。母は銀行勤めだった」

「僕の家の教育では、芸術やそれが人々にどのような変化をもたらしたかについて真の理解はなかった。芸術は僕たちが民族として通ってきた場所や、人類として直面した混乱を表す。中国を見てごらんよ。芸術家は活動を禁じられている。艾未未(がい・みみ、アイ・ウェイウェイ)は何年もパスポートを取り上げられていて、彼の作品は驚くべきものだ」

「テニスは芸術たり得る?」との質問に、ラオニッチは語気を強めて「芸術だよ」。

「ロジャー(・フェデラー)はコートで最も優雅なアーティストだけど、僕たちは皆それぞれクリエイティブなんだ。自分のテニスを作り上げるうえでね。偉大さを測るのは難しい――テニスでも芸術でも。それもあって、グランドスラムの優勝が素晴らしいプレーヤーであることの真の定義なのかどうか僕には分からない。でも、ウィンブルドンでは是非何か特別なことをしてみたい。今年はもっともっと多くの事を達成できそうな気がするんだ」

Milos Raonic  ‘Pete Sampras was my idol and I’d love to win Wimbledon’ _ Sport _ The Guardian

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