Wednesday, 18 April 2012

ドミトリーおじさんに聞こう

かつてはATPのブログ王、現在はTwitterで楽しませてくれているドミトリー・ツルスノフ。今年は手首の故障等で、全豪以降試合出場のない彼ですが、「The Tennis Space」というサイトで月1回ファンからの質問や悩みに答えています。例によって大変愉快な内容なので、今月分からいくつか抜粋してご紹介したいと思います。

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ドミトリーおじさんへ

チェンジオーバーでどうすれば精神的に優位に立てるかについて相談があります。僕は概して礼儀正しい人間で、エンドチェンジでネットに近づいて相手も同時にやって来た時、僕はいつも相手を先に通すのですが、これは間違っていますか?僕は彼に追従していると言っているようなものでしょうか?

それとも、自分はつまらない事を気にする人間ではない、構わず突っ込んで彼を待たせるような愚かな企みに頼る必要などない人間であると示していることになるのでしょうか?そういう状況では、二人同時に通ってどんどん肩をぶつけていくべきですか?あなたはもしかするとヴィーナスに助言を求めるかもしれませんね。彼女は肩のぶつけ合いを好むと聞いたことがあるので。

セブ
ニューヨーク


セブ、相手を先に通すのは間違いじゃない。君はただ礼儀正しくしているだけだ。けれども、時にはある種の人間が、君のやる事なす事においてくだらない競争をしかけているように感じることもあるかもしれない。君が空港でゲートに向かうと、奴らは前に割り込むために走ってくる。君がエスカレーターに乗れば、奴らは階段を駆け上り、後ろでキャリーバッグをバウンドさせながら追い越す。トイレに立っていれば、奴らはより強く、長く、射撃訓練でもしているかの如くより正確に標的に当てようとする。

この手の人間(マッチョな男)を相手にする時は、君は自己主張しなければならない。なぜなら、これは奴らがどのように世界を見ているかということだからだ。奴らは自分のことをサファリでメスを巡って戦うオスライオンのように思っているから、頭の中にあるのは目の前のゲーム――ボディランゲージで相手を倒すことだ。君にとっては些細なことが、このジャングルの王様にとっては生きるか死ぬかの一大事なんだ。とはいえ、肩をぶつけても、次のチェンジオーバーでは奴が君をどかせようと試みるだけの結果になるだろうし、もし君がこのチャレンジで引き下がれば、奴は勝ったと感じるだろう。

もし君が性悪なら、相手に勝利の気分を味わわせるべきじゃない。チェンジオーバーでは主審台とネットの間の狭い通路を先に通れ。奴にウインクしろ。相手を苦しめるのに皮肉は良い方法だ。次のチェンジオーバーでは先にネットに行って、奴が来たら「レディーファーストだ!」と言って道を譲れ。相手を導け。君こそが彼に道を示してやれる人間だ。父親が息子に世界への入り口を示してやるように。ボディランゲージに頼りがちな奴にはこれが効く。

チェンジオーバーでのちょっとしたトラッシュトークも、相手を苛立たせるのに良い方法だ。奴に言え。「お前、前はもうちょっと強くボール打ってたよな?」「ロゲインでも使ってんのか?髪が増えたみたいじゃねえか」「そんな重り付けてよく動けるよな。マジでびっくりするわ!!!」――奴の弱点を見つけていじれ。試合以外の事を考えさせろ。

注意: あなたは試合後、もしくは試合中にボコられるかもしれません。当方はこの過程で生じた損傷や怪我について、一切責任を負いません。
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ドミトリーおじさんへ

試合前の5分間練習でウィナーを狙う癖のあるローカルクラブのメンバーに困っています。時には同じことをやり返してみたりしますが、私は彼と同じレベルに落ちたくはありません。ツアーのプロも同じことをしますか?あなたはそのような人たちをどうしますか?助けて下さい。

アレクサ
ブリストル


バカな奴に「お前はバカだ」ってどうやって伝える?もちろん、彼(彼女)を「バカ」と呼ぶような古典的なやり方はある。でも、もしそれが効かなければウィナーを打て!ツアーでもゲートから飛びでるなり少々アグレッシブになって、ウォームアップで派手なショットを打って脅そうとする奴は何人かいるから、心の準備をしておく必要がある。備えることは状況に対処する助けになるし、それはネットの向こうにいるキ○ガイだけじゃなく、すべての事柄についてそうだ。それに反応しないプランを持て。

試合前、この手のアホを無力にさせる他の方法は、そのメンバーの浅ましいやり口に君が気づいているという事実を分からせることだ。ただし、感じ良く公平なやり方で。できれば他の人や主審の見ている前がいい。――「ウォームアップの間にあなたのウィナーが私の喉に入って潰されなければいいけど!反応できるようになるまで5分ほどかかりそうだわ!」。それか、もしサイドラインで見ている人間がいれば、ウォームアップ中ウィナーが来たら大声で言え。「あなたウォームアップでいい所に打つのね!緊張したことないの?!?!」。僕の意見では、友達を作るには茶化すのが一番だ。

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ドミトリーおじさんへ

私の質問は急を要するもので、早急にお返事いただければ幸いです。

あなたが一番好きなサーフェスで一番好きなグランドスラム、全仏を見に行く予定です。プレーヤーズボックスに(こっそり)座る方法についてアドバイスを下さい。何度もテレビに映るあれです。別にテレビに映りたいわけではなくて(映っても構いませんが)、ただ私の応援する選手に私の応援を見て、聞いてほしいだけなんです。あなたの助言は、選手とファンの女の子たち双方にとって役立つことでしょう。

よろしくお願いします。

大好きです。

ジェス

PS. 新しい髪型を見ました。丸坊主にして頭の手術でも受けるんですか?心配です。

自分のプレーヤーズボックスに誰が座るかについて、何人かの選手はかなり神経質なんだ。以前、僕が選手席に隣接するボックスに座ろうとしたことがあった。そこに行くには選手席を登っていくしかなかった。 これがすごかったのなんのって。 僕はチェンジオーバーを待つのに1ゲームそこに座っただけだった。試合の後、その選手のコーチが僕のところにやってきて、ボックスに二度と座らないように言った。それはコーチや近親者のためだけのもので、選手がとても驚いていたから、と。僕の反応が想像できるだろう。何人かの選手はこの手の事にちょっと変なんだ。ギャーギャーうるせえな!(誰だか当ててみて……)

僕の例で言えば、僕は架空の取り巻きのために席を空けている。もちろんアンディ・マレーのようなスケールのものじゃないが、支出に関して言えば、今日び架空の人間でさえかなりの金がかかる。さて、君はボックスの事を「テレビに何度も何度も映る」と言ってるが、聞く相手を間違ってる。僕はボールキッズがいるコートでプレーできれば運がいい方で、ボックス席やテレビカメラがあることはもっと少ない。主審ですら僕の試合なんて見ない。僕にひどいジャッジが多いのはそういうわけだ。

P.S. 新しい髪型を気に入ってくれて良かった。女の子に関しては、どうしてもユーズヌズヌズニズニに出し抜かれたくなかった。
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ドミトリーおじさんへ

友人との言い争いにケリをつけさせて下さい。ロッカールームの鏡を長く占領しているのはロジャー・フェデラー?それともラファエル・ナダル?

ジョン

ジョン

ライバル関係はコートの中だけじゃない。信じてくれ。こいつらは根っからの競争好きなんだ!
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ドミトリーおじさんへ

試合に勝った後、相手に言える最もきつい言葉は何ですか?

ダニエラ、香港

相手を倒した後、何か追い打ちを与えるのは好きじゃないな。優越感は僕の辞書では美徳じゃない。言われているように、確かに現実を見たり、雲の上から引きずり下ろされる必要のある人間はいる。テニスは一対一のスポーツで、技術だけでなく、しばしばエゴの争いが起こるものだ。

隣りの奴より少し利己的になる、他の奴より自分は優れていると感じるのは助けになる。自信を持つこと、その自信を表に出すことは、時に試合の決め手となる。そんな理由で、スポーツはしばしば剣闘士の試合と比較される。動物や血、他の不道徳な点抜きのね。

正直言って、相手がどうしても勝ちたがっていたり、本当に必死にプレーしているのを見て、自分が勝つのがフェアでないと感じる瞬間はかなりあった。自分は大して努力していなかった、それほど勝ちたくなかった、でも相手より良かった。そういう時はやる気を出すのに苦労した。でも、最終的には気分をさくっと切り替えて、相手を片付けるために元の皮肉屋の自分に戻るんだけど。特に、僕の深い考えと人類愛を、自分が試合を勝っていいゴーサインだと相手が勘違いしていたら。それはムカつくからね。

とにかく僕が言いたいのは、ラケットに喋らせろ、ってことだ。相手が自分に対してこうしてほしいと思うように振舞え。 試合の後、(素早く、パッと、瞬間的に)相手を精神的にへこませたいと感じても、それは君が追い求めている勝利じゃない。他の誰かの犠牲によって幸せを感じているのに気づくと、満足感は長く続かない。残念なことに、ネガティブな感情によるレッスンは上手くいかない。時にはかなりいい気分になることもあるけれど。

だが、もし君がどうしても相手にレッスンを与えたければ、これがその良い方法だ。

Expert help from Agony Uncle Dmitry Tursunov   The Tennis Space

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こんな具合にいつも面白いことを言って楽しませてくれるツルスノフですが、アップされたばかりの「ATP World Tour Uncovered」の彼の特集によると、プロになってから3度も手術を受けた足首等、度重なる故障に悩まされると同時に、お父さんとの関係においても長年葛藤を抱えていたとか。



昨年8月の「ATP DEUCEマガジン」内の彼のインタビュー記事によると、ツルスノフは5歳の頃からお父さんにテニスを仕込まれ、子供時代にそれ以外の思い出はなし。朝ごはんには「ビタミンBでボールがよく見えるようになるから」とにんじんが出て、コートでは軍隊のドリルをさせられる毎日。親子げんかの繰り返しで、ツルスノフは逃げ出すことも。後でお父さんから「いつかお前はこの事で私に感謝する日が来る」と言われても、「バカ言うな。絶対許すもんか。まして感謝なんて」と思っていたとか。

プロを目指すため、12歳で単身渡米。ロシアでは誰かのために練習をしているのが嫌だったので、アメリカで頑張る道を選んだものの、テニスに対しては依然として感情的に問題を抱えたままで、ホセ・ヒゲラス氏が関わるまでは精神的に混乱した状態にあったとか。

昨年オランダ・スヘルトーヘンボスで優勝した翌日、ツルスノフは末期の脾臓ガンのためモスクワで入院中のお父さんの下に駆けつけ、トロフィーを見せたそう。

「テニスは、僕たちを結び付ける以上に引き離した」
「だから、僕はテニスの話を避けようとした。でも、病床においてすら父は、どうすれば僕がもっとブレークポイントをコンバートできるかについて話そうとした」

お父さんはその3週間後に亡くなった、との事。

「父が亡くなる時、ずっと僕の心の中をよぎっていたのは、父が僕にしてくれた事に対して、僕が実際感謝しているということだった」
「最後に父は、当時自分が息子のためにしてやれる最善を尽くそうとしていたってことを僕が理解している、と気づいた。そして今、僕は父ができ得る最善の事をしたのだと実感している。僕は父がしてくれたことに本当に感謝している」

「僕はキャリアの中でもっと違うやり方ができただろうか?」
「もしかしたら、もっと違う風にするべきだったのかもしれない。分からないけど。分かっているのは、僕にとってテニスは旅で、みんな違うルートを通るってこと。そして、その間に得た知識は、失望よりも長く自分の元に留まるということだ」

Tennis - ATP World Tour - DEUCE Roland Garros Wimbledon 2011 - Dmitry Tursunov - Fear And Loathing

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ロシアのデジタル雑誌らしい、彼のいい男風のグラビアは下のリンクから。

Vlasov Projects | Men editorial Vlasov Projects | Men editorial (3~6ページ)

2 comments:

  1. ツルスノフってこんなに面白い人だったんですね。 知らなかったです。
    主審も試合を見ていないという自虐な所が一番笑えました。
    ジャパンオープンでは、試合後、最後の一人までサインしてから帰る人として有名ですが(コロシアムでも!)、今日からファンになります。

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  2. ツルスノフの試合は何度か見たことがありますが、サインの件は知りませんでした。優しい人ですね。

    来週は久々に試合(サバンナCH)に出るそうなので楽しみです。

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